「生存のエシックス」


京都国立近代美術館で開催されている、生存のエシックスへ行ってきました。「生命、医療、環境、宇宙における芸術的アプローチ」ということで、思いっきりアート! という感じのアートではなくて、面白かったです。偶然出会えたSZの前田さんに解説してもらいながら見ることが出来たのも、すごく良かったな :-) いくつか感じたことを書き留めておきたい作品があったので、箇条書きにしてみます。

  • 「蜂」プロジェクト

蜂の高度な嗅覚を使って、肺がんや糖尿病を患っているひとを見分ける、という診断器具。口臭を嗅ぎ分けるように訓練されている蜂が、丸いガラスのオブジェの中に入っている状態で、そのオブジェの中に息を吹き込んで使うのだそう。蜂が寄ってくれば、病気だと判断する、という、不思議な作品。同じ原理で「蚊」を使った試みもあるみたいです。男女ふたりが、蚊が入っている箱の中に腕を入れて、同じ蚊が寄ってくれば、相性がいい、とか。もちろん冗談です ;-p

  • バイオミュージック 水・森・生命・音

丸太に特殊なマイクが刺さっていて、ヘッドホンを耳にあてると、とんとん、という音がする。木の中の、キクイムシが木を食べている音、なのだそう。この作品の解説を聞いていて、どういう流れでこの話しになったのかは覚えていないのだけど、音って不思議、と思う話しがありました。例えば、水の音。風の音。魚が泳いでいる音。これって全部、なんの音だろう。空気と物体との摩擦? 心臓の音は、血液の流れる音は、その音はどこから来ているんだろう。

  • 光・音・脳

頭に機器をつけて、チューブ型の空間の中に入り、あおむけになり、鑑賞する作品。音と光がゆっくりと変化していくのだけど、頭につけた機器で前頭葉の脳血流を測定し、心地よい、と感じる音と光を探して、映し出してくれる、というもの。測定した脳波や、鑑賞者が見ている色は、誰でも外のモニターで自由に見ることができて、この人はずっと一定を保っている、とか、この人はすごく揺れ幅が大きい、とか、見られるのも面白かったです。わたしはカラフルな色の変化が最初から最後まで続いていたのだけど、うすい色や青色、黄色が心地よくて、機器もそういう結果を出していたみたい。でも、そう感じたり計測したからと言って、青ばかりが続いたり、黄色ばかりが続いたりはしなかった。心地よい状態って、絶えず変化しているんだって、知りました。一定のままじゃ、飽きてしまったり、とかで、心地よいもの、ではなくなってしまう。ひとは、常に変わり続けていくものなんだ、って。来週からはシステムを入れ替えて、不快と感じる音や色を継続させる、不快マシーンにするのだとか。今週中に見られてよかった...! :-0 そうそう、あと、コルビジェの椅子! すごく寝心地がよかったです! :-) この椅子に座りにいくだけでも、価値があると思います(なんて言ったら、制作者の皆さまに突っ込まれそうだけど)。

  • 遺伝子組み換え劇場

ティーブ・カーツ氏の奥様が急死したのを受け、氏が疑われ、無罪の判決を受けるまでに5年の歳月がかかったとのこと。氏が疑われたのは、生命科学分やなどの、一部の企業に独占された専門技術や特権の再分配を目指す活動を行ってきていたから。例えば、ひとつの企業が、何年後には枯れてしまうように遺伝子を組み換えた苗を独占販売している。購入者は、一定の期間ごとに常に苗を買い続けなければいけないようになってしまう。その苗に合う肥料を売っているのも、同じ会社。そういう現状があるということを、世間に知らせたい。そういう氏の活動、遺伝子組み換えに関する研究をしているということに対する、世間の偏見の目。思い込み、偏見が持つ影響力。イメージの持つ力、捕われやすさ。はっと、させられてしまう。

牛が殺されるときに、お腹のあたりを毛布でくるんでひっぱりあげてから殺すと、そうしないで殺すときよりも、牛が怖がりにくい、という研究結果があるらしいです。それで、人が無重力状態になったとき(というのは、文字通り地に足がつかない感じ、最初は身体がばらばらになった気分になるそう)に、落ち着くために、毛布を巻いてみたらどうか。毛布じゃなくて、バルーンならどうか、紐ならどうか、ということを試した実験映像。ほんというと、解説してもらった、牛の話しのが衝撃的でした :-0

  • 地上環境におけるセキュリティ・ブランケットの機能を有する器具の試作(2009-2010)より 試作品「厚く重い箱」

厚い木の箱の中に、鑑賞者が入れる作品。膝を抱える座り方で中に入って、腕は左右に出っ張っている腕置きに置いて、目の前には、座った時の頭の高さくらいの木の板が立っていて。入ったら落ち着くということだったけど、わたしは全然落ち着かなかったです! 箱の効果はともかく、お客さんがたくさん寄ってきて見られてたら、落ち着かないよ...! :-0

  • 盲目のクライマー/ライナスの散歩

薄い三角形の木の板が組み合わされて作られた構造物。その上にのぼることが出来たり、下をくぐり抜けることが出来たり。決められた道筋もないし、作品の隣には「のぼることが出来ますが、安全を約束された遊具ではありません。無理はしないでください。自分の心地良いと思える場所を探してください」という内容の張り紙。壁には蛍光灯がたくさん並べてあって、暗くなったり、明るくなったり。のぼったりくぐったりしてみたけれど、楽しかった! :-) 子ども達も遊んでいて、身軽だなぁって思ったり。最初は高いところを目指したくなるけど、しっくりくる場所が見つかったら、そこに座り続けたいって思ったり。三角形を組み合わせているだけなのに、とても丈夫で、構造体ってすごいって思いました。角度が少しでもずれたら成り立たない世界、なのにかちっと合わさると、こんなに丈夫。不思議で、なんだかすごい。

  • Trans-Acting 二重軸回転ステージ/浮遊散策

ふたつのドアが立っている、大きな丸い木の円盤がゆっくり、がたごとと回っている作品。円盤の上に乗ることが出来たのだけど、乗っている感覚が、すごく好きでした。天井にカメラがついていて、上から俯瞰した自分達の姿が壁に映し出されたり、円盤に映像が投影されたり。円盤は水平にまわっているようで、実はぐらぐらと揺れていて、平衡感覚を失いそうになったり。向かってくるドアに向かって、ゆっくりと歩くと、向こうもこっちに近付いてきて、近付き合うスピードがいつもと違っていて、楽しかったです。投影される映像はいろんな種類があったのだけど、木漏れ日の映像がすごく好きでした。実際には木漏れ日なんてないのに、そういうイメージの映像が投影されるだけで、なんとなく清々しく、気持ちの良い気分になるって、不思議。

  • アクアカフェ @KCUA Café

室内ではなく、外で組み立て真っ最中だったアクアカフェ。竹を組んで、そこに土を重ねているひとたちがいて、見ていたら気さくに声をかけてくださって、少しお話しができました :-) この建物の材料となる竹も、土も、水も、すべて0円なんですよ、と。土は、なんと江戸時代の土。水は、近くの蛇口からホースでひっぱってきた水道水。高速道路を立てるのに、壊されていく古い建物の土を、もらってきたのだそう。粘度のような土で(正確になんという土なのか、覚えていないけれど)、水でこねたばかりの土は柔らかいのに、乾燥したら、びくともしないくらい固くなる土。作りかけのカフェの中に入らせてもらったら、あたり一面が土のにおい。完成したら、お茶会が催されるそうです :-)

そうそう、展示会場でぽつりぽつりと見かけた「盲目のひとと、透明人間が、美術館で出会ったと、せよ」という内容の言葉(正確な言葉は忘れてしまいました...)の意図、聞き忘れてしまった :-0