ふたつは別物

例えば「ウェブが紙を脅かす」だとか「インターネットがテレビを脅かす」だとかは、よく言われることだけど、少なくとも現時点や近い将来においてはそれはちょっと違うのではないかと思う(特に、前者においては)。
このことについてid:landsculptorさんのダイアリーにて、氏の記事の本質とはずれるところがあるけれど、興味深い考え方が書かれていたので一部を引用。

最近出版社では雑誌や本のデータ化を進めているところが多いようです。これは大いに結構。しかし、ウェブをやっているからウチは進んでいるという考えを持っているところも多いようで、逆にこれは(変な言い方ですが)遅れているよな〜と思います。その考えで紙をおろそかにしているところは、いい出版社とはいえないでしょう。
(中略)
メディアというのはそれぞれに特性があり、掲載する情報によっては向き不向きがあります。例えば写真の美しさというのは、モニターの大きさや環境、キャリブレーションの有無などで画面では完全にはわかりません。断然紙が適しています。一方で、速報性の高いニュースなどはウェブが適しています。このように、情報を伝える側としては情報に適したメディアを選択するのもプロの仕事だと思います。ウェブに移行しつつある出版社も、紙なら紙の特性、ウェブならウェブの特性を把握した上で情報そのもののポテンシャルを上げるのが役目なのではないでしょうか。
(中略)
しかし残念ながら良いウェブサイトはURLを教えて見てもらえても、本の良さは実際手にとって見ないとわかりません。
ツレヅレナルママニ「本推進委員会」

そこにある「情報」を最も適したかたちで保存・提供するのに、ウェブを使うのか、紙(本)を使うのか、求められている状況や用途によっても違ってくるだろうけれど、上記にもあるように「メディアというのはそれぞれに特性が」あると思います。
わたしは情報デザイン畑の人(でありたい人)なので、そこにある「情報」自体を媒体によってどう「デザイン」していくのか、つまり、媒体が先にあるというものの考え方をよくします。でも、上記の記事のように情報ありきで媒体を選ぶ、という考え方もとても面白いし、情報そのものを大切にして品質の高いものを作ろうとするのなら、むしろそうであるべきだろうと思わされました。
ただ、現在においては「本⇔ウェブ」「テレビ⇔ウェブ」という双方向(クロスメディア)の関係が成り立っているように、そこにある「情報」を多くの人に見つけてもらうのに、インターネットの存在は欠かせないと思います。「情報」ありきの「媒体」で情報を良い状態で保存し、それを多くの人に紹介するための「媒体」のために「情報」をデザインする。そんな関係も成り立つのではないかなと思います。
もう少し具体的に書くと、例えば、写真を高質の紙や糊やインクで本という媒体にした(情報が先に来る媒体のデザイン)後、その本の存在を多くの人に知ってもらうために、写真としては劣っても、ウェブ上においては最も優れた画像データとして加工(媒体が先に来る情報のデザイン)をしてインターネットを利用する、そういう双方向の関係をうまく駆使する、また新しいデザインの在り方がここにはありそうだと言うこと。
昨今のウェブデザイナーには紙媒体でデザインすることを覚えた後、なんとなく成り行きでウェブのデザインも担当している、という背景を持つ人がよくいると思います。とてもヴィジュアルが格好良くて、センスが感じられる華やかなそのデザインは、でもやっぱり紙媒体が前提となっているような気がする。紙の方がウェブよりも圧倒的に歴史が古いので、しょうがないことと言えばそうなんだけど、これからは、ウェブの特性をよく理解して「デザイン」するデザイナーがもっと増えればいいなぁと思います(そしてわたしもそんな人になれるよう頑張らないと)。
紙とウェブ、双方向の矢印がある限り、クロスメディアを対象とする場合、昔の「紙媒体のみ」デザイナーから今時の「紙⇔ウェブ」デザイナーになるためには、どちらの特性も把握したデザインを出来るようになるべきだと言えます。こう書くだけなら簡単だけど、今時のデザイナーさんは大変です ;-)